大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

新潟地方裁判所高田支部 昭和47年(ワ)25号 判決 1981年4月23日

甲、乙、丙事件原告

株式会社和光商事

代表者

横山孔一

甲、乙、丙事件訴訟代理人

紺野稔

外四名

甲、乙事件訴訟代理人

岩淵信一

外一名

丙事件訴訟代理人

石田浩輔

外一名

甲事件被告

株式会社朝日新聞社

代表者

広岡知男

訴訟代理人

芦苅直已

外一名

乙事件被告

株式会社読売新聞社

代表者

務台光雄

訴訟代理人

表久雄

外三名

丙事件被告

株式会社新潟日報社

代表者

小柳胖

訴訟代理人

宮原守男

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者双方の申立

一  原告の請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自金五〇〇万円及びこれに対する昭和四四年二月八日から完済まで年五分の金員を支払え。

2  原告に対し、

(1) 甲事件被告株式会社朝日新聞社(以下被告朝日新聞社という)は、別紙(四)記載の謝罪広告を、同被告発行の朝日新聞朝刊全国版社会面及び新潟版に、表題、原告及び同被告名は新聞活字五倍活字を、その他の部分は同一倍半活字をもつて、三段抜きで各一回掲載せよ。

(2) 乙事件被告株式会社読売新聞社(以下被告読売新聞社という)は、別紙(五)記載の謝罪広告を、同被告発行の読売新聞朝刊新潟版に、表題、原告及び同被告名は新聞活字五倍活字を、その他の部分は同一倍半活字をもつて、三段抜きで一回掲載せよ。

(3) 丙事件被告株式会社新潟日報社(以下被告新潟日報社という)は、別紙(六)記載の謝罪広告を、同被告発行の新潟日報朝刊社会面に、表題、原告及び同被告名、同被告代表者名、原告住所は新聞活字二倍活字を、その他の部分は一倍活字をもつて掲載せよ。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  第1項につき仮執行の宣言

二  被告らの答弁

主文同旨

第二  当事者双方の主張

(原告の請求原因)

一  原告は、金融、不動産売買の仲介等を営業する会社である。

二  昭和四四年二月八日、

(1) 被告朝日新聞社は、同日発行の朝日新聞朝刊全国版に三段抜きで「白紙委任状で農家を食う」、「高田悪徳金融業者を摘発」との見出しをつけ別紙(一)の1記載の記事を、同新潟版に三段抜きで「ニセ契約で土地詐取」、「摘発された金融業「和光」」との見出しをつけ同(一)の2記載の記事を、それぞれ掲載して報道した。

(2) 被告読売新聞社は、同日発行の読売新聞朝刊新潟版に三段抜きで「白紙委任状で貸し金水増し」、「高田の和光商事捜索」との見出しをつけ別紙(二)記載の記事を掲載し報道した。

(3) 被告新潟日報社は、同日発行の新潟日報朝刊に四段抜きで「債権者だまし暴利」、「県警和光商事(本社高田)を手入れ」との見出しをつけ、かつ、「三千万円もとられる」との小見出しをつけた被害者の談話をのせ別紙(三)記載の記事を掲載し報道した。

三  右各記事は、いずれも原告が警察の捜索を受けたということのほかはすべて真実に反するものであり、被告らは、一方の関係者の言をそのまま取上げ、十分な裏付け取材をつくすことを怠り、事実無根の内容を興味本位な見出しをつけ、法律的には何ら問題とされるべきはずのないことを不正確な表現で記事とし、原告が悪質な手口を弄した悪徳金融業者であると読者に印象づけるべく報道したものであり、被告らは、いずれも故意又は過失により原告の名誉と信用とを毀損したものというべきである。

四  原告は、本件各記事が報道された昭和四四年二月ころは、資本金一、六〇〇万円、従業員二〇名前後、上越市内に本社を、新潟市内及び長野市内に営業所を有していて、過去三回の決算期における利益は、

(1) 昭和四〇年四月一日から昭和四一年三月三一日までが金二五八万一、七一五円

(2) 昭和四一年四月一日から昭和四二年三月三一日までが金五八一万五、二四八円

(3) 昭和四二年四月一日から昭和四三年三月三一日までが金六三二万二、四〇九円であつて、年間平均金四九〇万六、四五七円の利益をあげていた。

しかるに、本件各記事の報道により、従業員の退職が相次ぎ、新規採用もできず、また、顧客の減少により右以降三回の決算期における欠損は、

(1) 昭和四四年四月一日から昭和四五年三月三一日までが金四八二万六、八九三円

(2) 昭和四五年四月一日から昭和四六年三月三一日までが金一八〇万三、六九九円

(3) 昭和四六年四月一日から昭和四七年三月三一日までが金一七〇万五、五七六円

であつて、年間平均金二七七万八、七二二円の欠損を蒙つた。

すなわち、原告は、本件各記事の報道によつて少なくとも年間金七六八万五、一七九円の損害を蒙つたものであり、その三年分の金二、三〇五万五、五三七円の損害賠償請求権を有するものである。

よつて、原告は、被告らに対し、民法七一九条、七〇九条に基づき、各自右損害のうち金五〇〇万円及びこれに対する本件各記事の報道された昭和四四年二月八日から完済まで民法所定の年五分の遅延損害金の支払いを求める。

五  仮に、右財産的損害が認められないとしても、原告は、本件各記事の報道により名誉と信用とを著しく毀損されたものであるから、金銭評価の可能というべきその非財産的損害に対する賠償として、被告らに対し、右各法条に基づき、金五〇〇万円及びこれに対する右昭和四四年二月八日から完済まで民法所定の年五分の遅延損害金の支払いを求める。

六  さらに、本件各記事の内容及びその報道の仕方からしても、原告の名誉と信用とを回復するためには被告らに対し謝罪広告を掲載させるのが相当というべきであるから、原告は、民法七二三条、七〇九条に基づき被告朝日新聞社に対し請求の趣旨第2項の(1)記載のとおり、被告読売新聞社に対し同第2項の(2)記載のとおり、被告新潟日報社に対し同第2項の(3)記載のとおり、それぞれ謝罪広告をするよう求める。

(被告らの認否)

一  被告朝日新聞社

請求原因第一項及び同第二項の(1)の各事実は認め、同第三ないし第六項の各事実は争う。

二  被告読売新聞社

請求原因第一項及び同第二項の(2)の各事実は認め、同第三ないし第六項の各事実は争う。

三  被告新潟日報社

請求原因第一項及び同第二項の(3)の各事実は認め、同第三ないし第六項の各事実は争う。

(被告らの抗弁)

一  本件各記事の報道は、いずれもいまだ公訴を提起されていない原告の犯罪行為に関するもので、公共の利害に関する事柄につき、もつぱら公益を図るためにしたものであり、かつ、その内容は、すべて真実であるから違法性はない。

仮に、本件各記事が真実に反する部分を含んでいたとしても、本件各記事の内容は、昭和四四年二月七日、新潟県警察本部長室において行なわれた定例記者会見の席上において、当時の工藤本部長の公式発表した事実に基づき、捜査担当係官及び関係者らの裏付け取材をしたうえ、これが真実であると信じ、かつ、そう信じるにつき相当の理由があつたものであるから、被告らの本件各報道には過失がない。

二  すなわち、本件各記事の内容となつた事実関係は、次のとおりである。

(1) まず、被告朝日新聞社の本件各記事中の「Aさん」とは有田広一のことを、「架空の人物B」とは山際富夫のことを、被告読売新聞社の本件記事中「元不動産業者A」とは山際富夫のことを、被告新潟日報社の本件記事中「Aさん」とは有田広一のことを、「被害者Bさん」とは渡部弘司のことを、被告らの本件各記事中の被害者の具体例は五十嵐幸衛、渡部弘司らのことを、それぞれいうものである。

(2) 有田広一らの関係

1 山際富夫は、昭和三九年一〇月五日原告から金九万円を借受け、有田広一はその連帯保証人となり、同年一一月四日、長野地方法務局所属公証人高井麻太郎作成の昭和三九年第四〇一〇号金銭消費貸借契約公正証書(乙第五号証の一)が作成された。

2 山際は、昭和四〇年二月ころ、原告に対し、右借入金九万円を返済した。

3 しかし、山際は、その後原告から貸付けを受けたり返済したりをくり返し、昭和四〇年一一月一日ころ残債務が合計金二九七万四、〇〇〇円となり、右金額の借用証書を原告に差入れ債務の承認をしていたが、結局返済できず、原告としてもその回収に苦慮していた。

4 そこで、原告の実質的経営者である草間正義は、前記1記載のとおり山際のため連帯保証人となつたことのある有田広一が、度々他から高利の借入れを受けていることを知り、昭和四一年一月一三日ころ、有田広一方を訪れ、原告の方が他より金利が安いから借入れするよう勧誘し、これを信用した有田広一は、その後原告に対し金二〇〇万円の借入れを申込んだ。

5 その結果、有田広一は、昭和四一年一月一九日、原告から金二〇〇万円を弁済期を同年二月一七日と定めて借受けることとなり、有田広一、その妻有田璋枝及び有田広一の経営する島見畜産株式会社を連帯債務者とし、原告から言われるままに、金二〇〇万円の金銭借受契約書二通(うち一通が乙第一一号証)、金額二〇〇万円の約束手形一通、約定書一通、根抵当権設定約定書(金額欄は白地)三通、公正証書作成用委任状一通(乙第六号証の三)、有田広一名義の白紙委任状二通(乙第七号証の三、第九号証の五)、有田璋枝名義の委任状二通(乙第八号証の四、第九号証の六)に署名押印し、島見畜産株式会社の昭和四一年一月一九日付印鑑証明書一通(乙第六号証の四)、有田広一の同月一七日付印鑑証明書三通(乙第六号証の九、第七号証の四、第九号証の四)、有田璋枝の同月一七日付印鑑証明書三通(乙第六号証の八、第八号証の五、第九号証の二)、白紙に有田広一、有田璋枝が署名押印したもの各一通(甲第四号証の一、二)、をそれぞれ原告に交付し、利息のほか手数料名義で金八万円を天引きされて金二〇〇万円を借受けた。

6 そして、原告は、昭和四一年一月二九日、右各書類の一部を使用して、有田広一、有田璋枝、島見畜産株式会社を連帯債務者、原告を債権者、元本極度額金四〇〇万円の次の根抵当権設定登記を了した。

(イ) 有田広一所有の不動産に対し、新潟地方法務局葛塚出張所受付第四六二号

(ロ) 有田璋枝所有の不動産に対し、同法務局同出張所受付第四六三号

しかし、右の経緯からしても、原告が、有田広一及び有田璋枝から右各根抵当権の元本極度額について金四〇〇万円と定めることについて承諾を受けていなかつたことは明らかであるし、また、右各根抵当権が有田広一らの前記借入金二〇〇万円の担保である以外、前記の山際の原告に対する残債務まで担保するものでなかつたことは明白であつた。

7 次いで、原告は、昭和四一年二月二二日、前記各書類の一部を使用して、長野地方法務局所属公証人高井麻太郎に嘱託して右有田広一ら三名を連帯債務者、原告を債権者とする金二〇〇万円の昭和四一年第一二〇九号金銭消費貸借契約公正証書(乙第六号証の一)を作成した。

8 有田広一は、前記借入金二〇〇万円の弁済期である昭和四一年二月一七日に原告に対し弁済期の延期を申入れ、原告との間で弁済期を同年三月一〇日と変更した。

9 有田広一は、昭和四一年三月一一日ころ、原告に対し、前記借入金二〇〇万円の弁済のため金二〇〇万円を原告に提供し、前記根抵当権設定登記の抹消を求めたところ、原告は、突然、有田広一に対し、「山際の連帯保証人になつているから、山際の残債務も弁済しなければ抵当は解除できない」と言い出し、右金二〇〇万円の受領を拒否した。有田広一としては、山際の原告に対する残債務のため連帯保証したことはないとして抗議したが、原告は山際の残債務額すら明示しないで右のようないいがかりをつけ、以来有田広一と原告との間に再々の折衝が重ねられたが結局埒があかなかつた。

10 一方、原告は、有田広一に対し右のような態度をとりつづけながら、山際の残債務が昭和四一年四月上旬当時金二三六万円に達しているとして、これを有田広一、有田璋枝の前記不動産から回収しようと企て、前記有田広一ら三名のほか山際をも連帯債務者に加えて次のような方法をとつた。

すなわち、前記のとおり有田広一から交付されていた前記各書類のうち、有田広一の白紙委任状一通(乙第九号証の五)、有田璋枝が夫の有田広一を代理人と定め原告からの金員借入につき借用証書等の署名押印を委任する旨記載された有田璋枝の委任状一通(乙第九号証の六)、印鑑証明書二通(乙第九号証の二、同号証の四)を使用して、右印鑑証明書の有効期限(昭和四一年四月一六日)のさし迫つた昭和四一年四月九日ころ、草間正義は、当時の原告の代表取締役であつた横尾中三と共謀のうえ、従業員である能登義正に命じて、行使の目的をもつて、有田広一の右白紙委任状(乙第九号証の五)に根抵当権設定登記申請の委任事項を記入させ、他方、有田璋枝の右委任状(乙第九号証の六)の代理人有田広一の住所氏名及びその委任事項を抹消させたうえ、代理人を「横尾中三」と記載させ、根抵当権設定登記申請の委任事項を記入させ、もつて右委任状二通を偽造した。

そして、原告は、同月九日、右偽造にかかる委任状二通を、新潟地方法務局葛塚出張所受付第二三六九号をもつて、有田広一及び有田璋枝各所有の不動産に対し、元本極度額金三八〇万円、連帯債務者有田広一、同有田璋枝、同島見畜産株式会社、同山際富夫とする根抵当権設定登記申請書(乙第九号証の一)に添付して同出張所登記官に提出し、右偽造にかかる委任状二通を真正に成立したもののように装つてこれを行使し、よつて、同登記官をして右申請書に基づき、同出張所備付けの有田広一及び有田璋枝各所有の不動産の登記簿原本に右根抵当権設定の不実の記載をさせたうえ、即時、同出張所にこれを備付けさせて行使した。

11 次いで、原告は、右不実の根抵当権設定登記を了するや、昭和四一年四月一一日、有田広一らに対し、内容証明郵便で以上の根抵当権設定契約解除の通知を発し、そのころ同人らに右通知が到達し、根抵当権の元本債権は確定した。

12 そこで、有田広一は、弁護士本間五六に委任して、昭和四一年四月一六日、新潟地方法務局昭和四一年度第一〇六号をもつて供託者有田広一、被供託者原告とする金二〇〇万円の弁済供託をした。

13 しかるに、原告は、右弁済供託を無視し、昭和四一年四月一八日、新潟地方裁判所執行吏に対し、次の有体動産に対する強制執行の申立をし、その執行をした。

(イ) 島見畜産株式会社を債務者とし、前記7記載の公正証書(乙第六号証の一)に基づき同会社所有の有体動産を差押えた(同庁昭和四一年(執)第三六五号事件)。

(ロ) 有田広一を債務者とし、右公正証書及び前記1記載の公正証書(乙第五号証の一)に基づき同人所有の有体動産を差押えた(同庁昭和四一年(執)第三六七号、第三九九号事件)。

しかも、右公正証書(乙第五号証の一)の山際の借入金九万円は、前記2記載のとおり弁済により消滅していたものであつた。

14 そこで、有田広一らは、昭和四一年四月二一日、原告に対し、新潟地方裁判所に、右公正証書(乙第六号証の一)に基づく元金二〇〇万円の債務不存在確認、右公正証書に対する請求異議、前記6の(イ)、(ロ)記載の各根抵当権設定登記の抹消登記手続の各請求訴訟(同庁昭和四一年(ワ)第一六八号事件)を提起し、かつ、前記13記載の昭和四一年(執)第三六五号、第三六七号の各有体動産に対する強制執行停止の申立をし、同裁判所は、同月二五日、その旨停止決定をした。

また、有田広一は、同月二五日、原告に対し、新潟簡易裁判所に右公正証書(乙第五号証の一)に対する請求異議訴訟(同庁昭和四一年(ハ)第一八一号事件)を提起し、かつ、前記13記載の昭和四一年(執)第三九九号の有体動産に対する強制執行停止の申立をし、同裁判所は、同月二六日その旨停止決定をした。

15 ところが、原告は、昭和四一年四月二六日有田璋枝に対する前記6の(ロ)記載の根抵当権に基づき、貸付金二〇〇万円の請求債権をもつて、新潟地方裁判所に対し、不動産競売の申立(同庁昭和四一年(ケ)第二八号事件)をし、同日その旨競売開始決定がされた。

有田璋枝は、同年五月九日、右開始決定に対する異議の申立をした。

16 さらに、原告は、昭和四一年五月六日、有田広一に対する前記6の(イ)記載の根抵当権に基づき、山際に対する貸付金二九七万四、〇〇〇円を請求債権として、新潟地方裁判所に対し、不動産競売の申立(同庁昭和四一年(ケ)第三一号事件)をし、同月七日、競売開始決定がされた。

ちなみに、右根抵当権設定契約には、山際は連帯債務者となつていないことは前記6記載のとおりである。

17 さらに、原告は、前記10記載の新潟地方法務局葛塚出張所昭和四一年四月九日受付第二三六九号で不実の設定登記がされた架空の根抵当権に基づき、山際の原告に対する残債務を有田広一及び有田璋枝各所有の不動産から回収しようと企て、前記11記載のとおり、右根抵当権実行の通知を発し債務額の確定をした日の後である同月一三日付貸付金二三六万円、同年五月七日付貸付金一〇万円を請求債権とし、同年五月九日、あらためて有田広一及び有田璋枝に対し内容証明郵便で根抵当権実行の通知をしたうえ、同月一六日、新潟地方裁判所に対し、有田広一及び有田璋枝各所有の不動産に対する各不動産競売の申立(同庁昭和四一年(ケ)第三九号、第四〇号事件)をしたが、同裁判所は、原告の右請求債権の存否が係争中であるため競売開始決定を留保した。

18 これに対し、有田広一は、昭和四一年五月一八日、原告に対し、新潟地方裁判所に、前記17記載の原告の請求債権について有田広一の債務不存在確認及び前記10記載の新潟地方法務局葛塚出張所昭和四一年四月九日受付第二三六九号の根抵当権設定登記の抹消登記手続の各請求訴訟を提起した。

19 また、有田広一は、昭和四一年五月二〇日、被告訴人を横尾中三、草間某として、新潟東警察署に刑事告訴した。

20 その後、原告と有田広一らは、昭和四一年一〇月一三日、前記12記載の供託金二〇〇万円を取戻し、かつ、金九万円を加えて合計金二〇九万円を原告に支払う旨の和解契約を締結し、そのころ、原告に対しこれを支払い、原告の同意を得て、前記14記載の新潟地方裁判所昭和四一年(ワ)第一六八号事件及び新潟簡易裁判所昭和四一年(ハ)第一八一号事件の各訴訟を取下げた。

21 ところが、原告は、前記15、16、17記載の新潟地方裁判所昭和四一年(ケ)第二八号、第三一号、第三九号、第四〇号事件の各不動産競売申立事件を取下げようとしないので、有田璋枝は、昭和四一年一〇月一九日、再び原告に対し、新潟地方裁判所に対し、前記10記載の新潟地方法務局葛塚出張所昭和四一年四月九日受付第二三六九号の根抵当権設定登記の抹消登記手続請求訴訟(同庁昭和四一年(ワ)第五三五号事件)を提起し、かつ、同庁昭和四一年(ケ)第二八号、第四〇号事件の不動産競売停止の仮処分申請をし、また、さきに有田広一が同裁判所に対し申請中の同庁昭和四一年(ケ)第三一号、第三九号事件の不動産競売停止の仮処分申請についても速やかに仮処分決定をするよう上申した。そして、同裁判所は、同月二五日、有田広一及び有田璋枝からの右各仮処分申請をいずれも理由があるものと認め、右各不動産競売手続を全て停止する旨の仮処分決定をした。

22 以上のとおり原告が根抵当権設定を受けたとする有田広一及び有田璋枝各所有の不動産については、有田広一及び有田璋枝は、原告から前記各執行を受ける以前の昭和四一年三月一〇日ころ、財団法人新潟市開発公社に対し売却する旨契約し、右公社が、右各不動産につき抵当権付債権を有していた風間光雄、松田松意らに対し、右代金のうちからそれぞれ弁済がなされいずれも同人らの抵当権設定登記の抹消登記手続が完了していたことから、右公社は、同年一二月二七日、原告との間で右代金のうちから金二二七万七、〇五七円を支払うことで話をつけ、原告の前記各根抵当権設定登記のすべてを抹消することができたのである。

23 かくして、有田広一らは、原告から金二〇〇万円を借受けただけで、前記のとおり原告に委任状を偽造される等して不実の根抵当権設定登記をされ、かつ、不当な執行によつてその所有不動産のすべてを失うに至つたのである。

(3) 五十嵐幸衛の関係<省略>

(4) 渡部弘司の関係<以下、事実省略>

理由

一請求原因第一項の事実は当事者間に争いがなく、原告と、被告朝日新聞社との間において同第二項の(1)の事実、被告読売新聞社との間において同項の(2)の事実、被告新潟日報社との間において同項の(3)の事実は、それぞれ争いがない。

二新聞記事による名誉毀損の成否については、記事内容のみならず、読者に与える印象等についてもその判断基準とすべきところ、本件各記事は、その見出し、記事内容等に照らし、原告が私文書偽造等の犯罪行為を行なつてまでも貸金を水増し、債務者から土地を取上げた悪徳金融業者であるということを内容とし、かつ、その印象を読者に与えるものであることは明らかというべきであつて、原告の名誉と信用とを毀損するものであつたということができる。

三そこで、以下被告らの抗弁について判断する。

(一)  新聞記事が他人の名誉を毀損する場合であつても、その内容が公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的で報道したものであるときは、摘示された事実が真実であつたことが証明される限り、右行為は違法性を欠き不法行為は成立せず、また、右事実の真実性が証明されなくても、その報道する側において右事実が真実であると信じ、かつ、そう信じるにつき相当の理由がある場合には、右行為には他人の名誉を毀損することにつき故意、過失がなく、不法行為は成立しないものと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、本件各記事の報道が、いずれもいまだ公訴を提起されていない原告の犯罪行為に関するもので、公共の利害に関する事柄につき、もつぱら公益を図るためにされたことは、本件各記事の内容及び弁論の全趣旨により認めることができ、本件証拠上これを左右するに足りる証拠は存しない。

(二)  そこで、以下本件各記事の内容が、真実に合致するものであるか否か、仮りに真実に合致しない場合には被告らにその内容を真実であると信ずるにつき相当の理由があつたか否かについて検討するに、まず、

(1)  抗弁第二項の(1)の事実は当事者間に争いがない。

(2)  有田広一らの関係について

1 抗弁第二項の(2)の1の事実は当事者間に争いがない。

2 <証拠>によれば、同(2)の2の事実を推認でき<る。>

3 同(2)の3の事実は当事者間に争いがない。ところで、原告は、原告と有田広一との間には、同人が山際と連帯債務者となり、昭和三九年一〇月、金六〇〇万円を限度額とする金員取引の約定を締結し甲第一号証を作成していたから、同人は山際の原告に対する債務については右金六〇〇万円までは連帯債務者としてその責任を負担する関係にあつた旨主張する。しかし、証人有田広一、山際富夫、草間正義の各証言によれば、甲第一号証は前記1で認定した山際が原告から金九万円を借受けた際これを連帯債務者としてその責任を負担する趣旨で有田広一が山際と連署して原告に対し差入れたものであることが認められ、また、同号証の第一五条の「貴殿より私の借用する限度額は金六〇〇万円迄とする。」との記載は、成立に争いのない乙第三九号証の一、二に照らして明らかなように、右文言及び欄外の「第一五条弐拾五字加入」の文言のインクの色と、有田広一の署名及びその上の「連帯保証人」の不動文字の「保証人」を「借主」と訂正し、かつ、その欄外に「参字抹消弐字加入」の文言のインクの色とが異なること、証人山際富夫、鈴木清治の各証言によれば、山際は、原告と有田広一との間に山際の原告に対する債務の連帯債務の負担の有無をめぐつて紛争の生じた後の昭和四一年四月八日ころ、原告の実質的経営者で支配人をしていた草間正義に頼まれ、有田広一に無断で右第一五条の文言を書込んだことが認められるのであるから、右第一五条の文言の記載をもつて有田広一が山際の原告に対する債務につき金六〇〇万円を限度として連帯債務を負担したと認めることはできないというべきである。

4 同(2)の4の事実のうち、草間正義が、昭和四一年一月一三日ころ、有田広一を訪れ、同人が他から高利の借入れをしているので、原告の方が金利が安いから借入れをするよう申し向けたことは当事者間に争いがない。ところで、原告は、右勧誘に応じた有田広一は、原告に対し、山際との連帯債務限度額金六〇〇万円を含め金一、二〇〇万円の借入れの申込みをしてきたので、有田広一及び同人の妻有田璋枝各所有の不動産に根抵当権を設定すること、右両名及び有田広一の経営する島見畜産株式会社を連帯債務者とすることとして右申込みを承諾したが、有田広一からとりあえず金二〇〇万円の借入れを申込まれたのでこれに応ずることにしたものであると主張し、証人草間正義の供述中にはこれに添う供述部分も存するが、右供述部分は、証人有田広一、山際富夫、鈴木清治、有田正継の各証言に照らして措信しがたく、他に右主張を首肯させるに足りる証拠はない。

かえつて、証人有田広一、有田正継の各証言によれば、有田広一及び有田璋枝は、草間正義の右勧誘に応じて原告に対し金二〇〇万円の借入れの申込みをしたが、原告から総額で金一、二〇〇万円の借入れをする意思も、山際の原告に対する債務を連帯債務者として負担する意思も有していなかつたことが認められるのである。そして、これに反する甲第四号証一、二は、証人有田広一の証言によれば、同人が原告にこれらを差入れた際は白紙に署名押印したものであつたことが認められるところ、これらの本文はいずれもガリ版刷りであり、しかも同一時期に作成したと推認されるのにその文言、体裁に違いがあり、有田広一らの意思で本文が記入されたか否か疑問があるといわざるをえず、右認定を左右するに足りるものとは認められない。

5 同(2)の5の事実、6の事実のうち、原告が昭和四一年一月二九日、被告ら主張の(イ)、(ロ)の各根抵当権設定登記を了したこと及び7の事実はいずれも当事者間に争いがない。

ところで、証人有田広一の証言によれば、有田広一は、原告から金二〇〇万円を借受けるにあたり、原告から求められるまま同(2)の5記載の各書類を差入れたが、担保としては自己及び妻の有田璋枝各所有の不動産に抵当権を設定する意思を有していたことが認められるところ、原告は、有田広一から受領した各書類のうちには、同人が山際と金六〇〇万円を限度とする連帯債務を負担していた分を含めて、有田広一、有田璋枝、島見畜産株式会社の三者が山際とともに連帯債務者となる旨の取引約定書(甲第一一号証)、山際と有田広一との連帯債務のうち既に遅滞となつていた金二九七万四、〇〇〇円についての金員借受契約書(甲第二号証)、右金二〇〇万円の金員借受契約書が存在するのであるから、有田広一らが山際の原告に対する債務の連帯債務を負担する意思であつたことは明らかである旨主張する。しかし、証人山際富夫の証言によれば、甲第二、第一一号証の山際の各署名押印部分は、甲第一号証に第一五条の文言を前記認定のとおり山際が書込んだ際に、同じく草間正義から頼まれて有田広一に無断でしたものであること、甲第二号証の金二九七万四、〇〇〇円の記入部分はその際記入されていなかつたことが認められ、証人草間正義の供述中これに反する部分は措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。従つて、甲第二、第一一号証をもつて有田広一が山際の原告に対する債務の連帯債務を負担する意思をうかがわせるものということはできないというべきである。

次に、原告は、有田広一から根抵当権設定約定書を三通受領したが、第一は前記金二九七万四、〇〇〇円の分、第二は金二〇〇万円の貸付分、第三は山際との連帯債務の増加分及びその後の貸出しの分であり、第三の分については山際も連帯債務者として署名押印し、これらの各根抵当権設定については、有田広一の借入申込み総額が金一、二〇〇万円であつたので将来貸付元本が増加することを考慮して第一及び第二の分については元本極度額を各金四〇〇万円とし、第三の分についてはこれを金三八〇万円とすることとした旨主張する。しかし、証人山際富夫の証言によれば、甲第一二号証(右第三の分の根抵当権設定約定書)の山際の署名押印部分は、甲第二、第一一号証の場合と同様、甲第一号証の第一五条の文言を前記認定のとおり山際が書込んだ際、草間正義に頼まれて有田広一に無断でしたものであること、その際甲第一二号証の不動産の表示の部分は白紙であつたことが認められ、また、甲第一三号証(右第一の分の根抵当権設定約定書)には甲第一二号証と作成日が同一であるにもかかわらず山際の署名押印が存在せず、有田広一が山際の原告に対する債務の連帯債務を負担する関係にある甲第一二、第一三号証が異つた取扱いをされていて不自然さをまぬかれないことに照らし、右主張はとうてい首肯することができないというべきである。

6 <証拠>によれば、同(2)の8の事実を認めることができ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

7 <証拠>によれば同(2)の9の事実を認めることができ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

8 同(2)の10のうち、原告が、昭和四一年四月九日、有田広一及び有田璋枝各所有の不動産に対し、連帯債務者を有田広一、有田璋枝、島見畜産株式会社及び山際富夫とする元本極度額金三八〇万円の根抵当権設定登記を了したことは当事者間に争いがない。

ところで、右登記手続に使用した有田広一の委任状は乙第九号証の五であり、有田璋枝の委任状は同号証の六であつたことが明らかであるが、有田広一が原告に対しこれらを差入れた際、乙第九号証の五が委任事項につき白紙であつたことは当事者間に争いがなく、また<証拠>によれば、乙第九号証の六の委任状は、有田璋枝が夫の有田広一に対し原告に対する借用証の署名等を委任する趣旨のものであつたこと、しかるに、右受任者及び委任事項が抹消され、右根抵当権設定登記手続のための受任者及び委任事項に書換えられていることが認められ、右書換えが原告によつてされたことは原告の自認するところである。

そうとすれば、有田広一の証言及び有田広一が山際の原告に対する債務の連帯債務を負担する意思がなかつたとの前記認定したところに照らせば、乙第九号証の五の委任事項は原告が有田広一の意思に基づかずに記入したものであり、また、同号証の六の委任事項の書換えも有田璋枝の意思に基づくものとはいえないというべきであつて、原告の偽造によるものと断ぜざるをえない。

原告は、乙第九号証の六は有田璋枝がその所有する不動産につき夫の有田広一とともに山際の原告に対する債務の連帯債務を負担する意思で根抵当権を設定することを承諾しそのための委任状を原告に差入れていたが、原告がその委任状を汚損し廃棄してしまつたため、別途預つていた乙第九号証の六の委任状を流用したにすぎない旨主張するが、有田広一の証言及び有田広一が山際の原告に対する債務の連帯債務を負担する意思がなかつたとの前記認定したところによれば、有田璋枝もまたかかる意思を有していなかつたこと明らかというべきであり、原告の右主張はとうてい首肯することができない。

そして、<証拠>によれば、原告は、昭和四一年四月九日、右偽造にかかる委任状二通を根抵当権設定申請書に添付し、新潟地方法務局葛塚出張所登記官に対し提出して行使し、同登記官をして同出張所備付けの有田広一及び有田璋枝各所有の不動産の登記簿原本に右根抵当権設定の不実の記載をさせたうえ、即時、同出張所にこれを備付けさせて行使したことを認めることができ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

ところで、原告は、右根抵当権設定登記を了したのは、昭和四一年一月一九日以降、山際が原告に割引依頼をしてきた約束手形の不渡りが増加し、同年四月ころには合計金二〇〇万円以上となつたためであり、山際との間で同月九日右不渡りに基づく手形買戻金請求債権を金二三六万円と確認し合い、同月一三日、これを貸借の目的とする準消費貸借契約を締結した旨主張するので、この金二三六万円の山際の債務について検討するに、証人山際富夫の証言によれば、右金二三六万円は山際の原告に対する前記金二九七万四、〇〇〇円の債務と同一のものと認めるのが相当であつて、とうてい昭和四一年一月一九日以降の別口の債務と認めるには、既に右金二九七万四、〇〇〇円の債務について山際から回収に苦慮していた原告が、さらに多額の融資を短期間のうちにしたとするには不自然であるというべきである。<証拠判断略>

9 同(2)の11のうち、原告が、昭和四一年四月一一日、有田広一らに対し、内容証明郵便で根抵当権設定契約解除の通知を発し、そのころ同人らに右通知が到達し、根抵当権の元本債権が確定したことは当事者間に争いがない。原告は、右通知は前記金二九七万四、〇〇〇円の分と金二〇〇万円の分についてである旨主張するところ、<証拠>によれば、いずれの根抵当権設定契約を解除するものか特定することは困難であるが、<証拠>によれば、前記元本極度額金三八〇万円の根抵当権設定契約解除の通知がされていることが認められることに照らし、右主張は首肯できるというべきである。

10 <証拠>によれば同(2)の12の事実を認めることができ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

11 同(2)の13のうち、原告が、昭和四一年四月一八日、被告ら主張の債務名義をもつて(イ)、(ロ)の有体動産に対する強制執行をしたことは当事者間に争いがない。従つて、少なくとも乙第五号証の一の公正証書に基づく執行は、前記2で認定したとおり請求権は弁済により消滅していたもので違法なものというべきである。

12 同(2)の14、15の各事実は当事者間に争いがない。

13 次に、原告が、昭和四一年五月六日、被告ら主張の(2)の6の(イ)記載の根抵当権に基づき、山際に対する貸付金二九七万四、〇〇〇円を請求債権として、新潟地方裁判所に対し、不動産競売の申立(同庁昭和四一年(ケ)第三一号事件)をし、同月七日、競売開始決定がされたこと、次いで、原告が、同月九日、被告ら主張の(2)の10記載の根抵当権に基づき、有田広一、有田璋枝に対し、内容証明郵便で基本取引契約を解除する旨通知し、同月一六日、新潟地方裁判所に対し、山際に対する同年四月一三日貸付金二三六万円及び同年五月七日付貸付金一〇万円を請求債権として、右両名各所有の不動産に対する各不動産競売の申立(同庁昭和四一年(ケ)第三九号、第四〇号事件)をしたこと、同(2)の18ないし22の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

14 右認定した各事実によれば、原告は、山際に対する金九万円の貸付金が弁済により消滅しているにもかかわらず、連帯保証人有田広一に対し有体動産執行に及び、また、有田広一、有田璋枝に全く関係のない山際の原告に対する債務を、しかも同一の債務を二重に請求し、右両名の委任状を偽造し、これを行使して右両名所有の不動産に不実の根抵当権設定登記を了し、さらにはこれが競売の申立をして取立てに及ばんとしたものと断ぜざるをえないものである。

(3)  五十嵐幸衛の関係について

1〜3<省略>

4 右認定した各事実によれば、原告は、五十嵐幸衛に全く関係のない山際の原告に対する債務を、五十嵐幸衛の委任状を偽造し、これを公証人に提出して行使し、不実の公正証書原本を作成せしめたものであり、かつ、右公正証書に基づき五十嵐幸衛に対し強制執行に及んだものと断ぜざるをえないものである。

(4)  渡部弘司の関係について

1〜6<省略>

7 右認定したところによれば、結局渡部弘司と原告との間の執行段階におけるところの約束の内容及びその成否に問題があつたものというべきであり、あながち原告のみを責めることはできないというべきではあるが、原告の執行に及んだ態度はいささか強引なものであつたといわざるをえず、そのため渡部弘司は借入れした元利金を返済しうる状況にあり、かつ、その意思を表明していたにもかかわらず、原告の執行により右元利金に数倍する建物及び動産類を失つた結果に至つたものというべきである。

四以上認定した各事実をもとに本件各記事を以下検討する。

(一) <証拠>を総合すると、本件各記事は、昭和四四年二月七日、新潟県警察本部長室において行なわれた定例記者会見の席上において、当時の工藤本部長の公式発表した事実、すなわち、前記三の(二)の(2)の8で認定した有田璋枝の委任状(乙第九号証の六)の偽造及びその行使、同人所有不動産の登記簿原本に登記官をして不実の根抵当権設定登記の記載をさせた事実について捜査に着手していること、及びそれに関連して有田広一の関係その他五十嵐幸衛、渡部弘司等かなり被害者がいること等を発表した事実に基づき、被告らが捜査担当者及び右発表により被害者とされた者に対する裏付取材をしたうえ報道されるに至つたことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  被告朝日新聞社の本件記事について

(1)  別紙(一)の1記載の記事について

右記事のうち、「横尾社長らが、A(有田広一のこと)に現金二〇〇万円を貸し、担保として白紙委任状数枚を受取り、それを使つてAを原告の架空の債務者の保証人に仕立てあげ、A所有の時価数千万円の土地に根抵当権を設定した契約書を偽造、登記してAの土地を取上げた疑い。」との部分は、前記三の(二)の(2)で認定した各事実に照らして「架空の債務者の保証人」との部分が「山際富夫の連帯債務者」というべきが正確であり、また、「A所有の時価数千万円の土地を取上げた」との部分も不正確といわざるをえないが、大筋においてその記事内容の骨子は右認定した各事実に添うものというべきである。また、「法に無知な農家の人たちを相手に同様の手口で悪どいもうけをしていた。被害者はかなりの多数に上るものと見られている。」との部分についても前記認定した各事実に前記定例記者会見における発表事実に照らし、大筋において真実であると信じ、かつ、そう信じるにつき相当の理由があつたものというべきである。

(2)  別紙(一)の2記載の記事について

右記事のうち、「白紙委任状を架空の人物Bと貸借契約書を作りあげこれの保証人をAさんとした」との部分は前記(1)のとおり不正確といわざるをえず、「返済できない場合には土地で支払うという代物弁済契約書を偽造した。」との部分及び「こうしてAさんが金を返しても返せなくても架空の契約書で架空の人物Bの債務不履行を理由にAさんの土地は原告が取上げる権利が成立してしまつている。」との部分は、前記認定した各事実に照らし、「代物弁済契約書を偽造した」との点は事実に反し、その余の部分は不正確というべきではあるが、大筋においてその記事内容の骨子は右認定した各事実に添うものというべく、右の事実に反する点及び不正確な記述が原告の名誉及び信用を毀損する事由になつたとは認めることができず、また、その余の記載部分についても前記定例記者会見における発表事実に照らし、真実であると信じ、かつ、そう信じるにつき相当の理由があつたものというべきである。

(三)  被告読売新聞社の本件記事について

別紙(二)記載の記事のうち、有田広一が原告から借入れた金額が金二〇〇万円ではなく「金三〇〇万円」と記載されていること、「白紙の公正証書」といつた誤つた記載があることは、前記三の(二)の(2)で認定した各事実に照らし明らかであるが、大筋においてその記事内容の骨子は右認定した各事実に添うものというべく、右記載の誤りをもつて原告の名誉及び信用を毀損する事由になつたものと認めることはできず、また、その余の記載部分についても前記定例記者会見の発表事実に照らし、真実であると信じ、かつ、そう信じるにつき相当の理由があつたものというべきである。

(四)  被告新潟日報社の本件記事について

別紙(三)の記事のうち、見出しの「債権者だまし暴利」とある「債権者」は「債務者」の誤りであることは記事内容に照らし明らかであること、また、「白紙の債務保証書」との部分及び「勝手に不動産などに抵当権を設置してしまうので知らない間に家、屋敷が他人の名義になつている。」との部分は前記三の(二)の(2)で認定した各事実に照らし不正確であり、かつ、法律的立場からみてもその表現は不正確であるというべきではあるが、大筋においてその記事内容の骨子は右認定した各事実に添うものというべく、右記載の不正確な点をもつて原告の名誉及び信用を毀損する事由となつたものと認めることはできず、また、その余の記載部分についても前記定例記者会見の発表事実に照らし、真実であると信じ、かつ、そう信じるにつき相当の理由があつたものというべきである。

五以上のとおり、本件各記事は、その表現上一部不正確もしくは誤つた記載をしている点があり、報道機関として慎重さを欠き、また、その表現方法をみるかぎり、原告が悪徳金融業者であることを読者に印象づけようとしているとみられうるが、その記事内容の骨子がその大筋において真実に合致し、かつ、前記定例記者会見の発表事実に基づいて裏付取材をしたうえ報道したのであるから、被告らの本件各記事の報道は、原告に対する不法行為が成立する余地のないものであつたというべきである。

よつて、爾余の点を検討するまでもなく、原告の本訴各請求は、いずれも理由がないからこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(小川克介)

別紙(一)の1

白紙委任状で農家を食う

高田 悪徳金融業者を摘発

新潟県警察本部捜査二課と新潟東署は七日、同県高田市仲町二金融業和光商事株式会社(横尾仲三社長)本店と新潟市万代町一一同社新潟出張所、長野市権堂町同社長野営業所など十二カ所を私文書偽造、公正証書原本不実記載の疑いで家宅捜索、横尾社長ら関係者を近く同容疑で取調べることにしている。

調べでは、横尾社長らは、さる四十二年春ごろ、新潟市島見町農業Aさんに現金二百万円を貸し、担保として白紙委任状数枚を受取り、それを使つてAさんを同社の架空の債務者の保証人に仕立てあげ、Aさん所有の時価数千万円の土地に根抵当権を設定した契約書を偽造、登記してAさんの土地を取上げた疑い。

同社は資本金一千六百万円の中堅金融業者で、法に無知な農家の人たちを相手に同様の手口で、悪どいもうけをしていた。被害者はかなり多数に上るものと見られている。

別紙(一)の2

ニセ契約で土地詐取

摘発された金融業「和光」

七日 県警本部捜査二課が摘発した金融業和光商事会社(横尾仲三社長)は、会社ぐるみで無知な農家の人をだまし、その土地をそつくり取上げるという“悪徳”ぶりを発揮し、そのやり方の巧妙なことは捜査員も驚いている。同本部の調べによる同社のやり方の実例は次のようなものだ。

新潟市島見のAさんは、同社から数年前、二百万円の融資を受けたとき、担保に関する白紙委任状数枚を同社に出させられた。同社は白紙委任状を架空の人物Bと同社の貸借契約書に作りあげこれの保証人をAさんとした。同時にAさんの他の白紙委任状を利用して同社とAさんとの間に根抵当権設定契約書と、返済できない場合には土地で支払うという代物弁済契約書を偽造した。こうしてAさんが金を返しても返せなくても同社はこれら架空の契約書で、架空の人物Bの債務不履行を理由にAさんの土地は同社が取上げる権利が成立してしまつているという悪どい仕組み。

別紙(二)、(三)<省略>

別紙(四)

謝罪広告

当社は昭和四四年二月八日発行の朝日新聞紙上全国版において、「白紙委任状で農家を食う」「高田悪徳金融業者を摘発」「ニセ契約で土地詐取」「摘発された金融業和光」等の見出しで貴社に関する記事を掲載しましたが、その後調査の結果、右記事の内容は真実に反するものであることが判明致しました。

当社の軽卒な取材、記事の取扱いにより貴社の名誉を著しく傷つけ、多大な御迷惑をかけたことは誠に申訳なく、ここに謹んでお託び申し上げます。

昭和  年  月  日

株式会社朝日新聞社

別紙(五)、(六)<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例